【9】 合気道は桃太郎の養成所
故奥村繁信師範から伺った話です。開祖はよく「合気道は桃太郎の養成所じゃ」と言われていたそうです。桃から生まれた桃太郎がなぜ合気道の養成所になるのか、奥村先生から次のように教わりました。
★ 奥村先生のお話
桃太郎の家来は、猿、犬、雉だが、猿はとても賢く「智」、犬はとても人に忠実で「忠」、雉はとても勇気があり「勇」の象徴です。桃太郎には、この智・忠・勇の家来が備わっている。合気道を修業する者は、稽古を通じて智・忠・勇を身に付けていかねばならない。言い換えると、智・忠・勇を備えた人間を養成するのが合気道の果たす役割である。したがって、「合気道は桃太郎の養成所じゃ」と言うことです。
★ 私見
私達は正に合気道を通じ桃太郎にならなければならないと思うと同時に、その素晴らしい合気道を作っていただいた開祖、それを一般に広められた二代目道主、そして道統を守られている現道主に感謝しなければならないと思います。
★ご参考/最近の私の研究
1.桃太郎と古事記
開祖は良く古事記を引用されます。「合気道は桃太郎の養成所じゃ」と言われたのは、とても意味深いものがあると思います。
● 桃 (古事記 4.黄泉の国▶ 参照)
伊耶那岐の命が黄泉の国から逃げ帰る時、「桃」の実を三つ取って、黄泉の国軍に投げつけ難を逃れることができました。伊耶那岐の命は、「桃」に意富加牟豆美(おほかむづみ)の命という名を与え、「私を助けたようにこれからも人々が困っている時は助けておくれ」と言われた。
● 雉 (古事記 17.復命しない神々の末路▶ 参照)
天照大御神は、なかなか復命しない神々に業を焼き、思金の神に次にいずれの神を遣わすべきかを相談し、思金の神は、鳴女と言う名前の「雉」を神の使いとして遣わせました。しかし、天若日子はその「雉」を弓矢で射上げ、「雉」は天上の神の足元に落ちました。
● 猿 (古事記 22.天孫の降臨▶ 参照)
天孫が降臨する折、猿田毘古(さるたびこ)の神が、途中で天孫を出迎え、道案内を買ってでました。「猿」が鬼が島への道案内をしたとも言われています。
● 犬
古事記には「犬」は登場しませんが、「犬」そのものが神と言われています。地方によっては、「帰る」ことを「イヌ」と言います。地上から天に帰るのは神ですので、「帰る」=「イヌ(犬)」=「神」と言う事になります。また、「イヌ」は「イニ」がなまったもので、「犬」は元々は「イニ」と言い、「仁(ジン)」を象徴するという説もあります。
2.なぜ雉は、単に鳥ではないのか
桃太郎に登場する動物は猿、犬と来れば次は、鳥で良いではないでしょうか?なぜ鳥だけが雉なのか?またなぜ雉は「勇」なのかを調べてみました。
昔話は口伝ですので、キャラクターのイメージが湧きやすいということが重要な要素だったようです。昔、日本には西洋犬はいませんでした。日本犬は大きさの大小はあれど、それほど見た目の違いはありませんので、犬と言うだけで大体イメージが湧いたようです。同様に猿もニホンザルだけなので、単に猿でイメージが湧いた。一方鳥は、鷹、からす、鶏、水鳥など色々な種類がいますので、単に鳥では、桃太郎に登場するキャラクターとしてのイメージが湧きにくい。そこで雉が登場した。雉は古事記にも登場し、神の使いと言う特別な鳥であることも連想できます。
また、鳥は大変臆病な動物なのですが、雉は大変勇ましく、わが子の為なら自分よりはるかに大きな動物にも向かっていくそうです。「勇」のイメージにもぴったりです。