【10】 無刀の位からの出発
故藤田昌武師範がよく言われた言葉です。無刀(むとう)とは読んで字の如く、刀が無い、刀を使わないという意味で、位(くらい)とはレベルだそうです。藤田先生は、武器取りの武器も体の延長と思って捌けば良い。一方、攻撃する側のたしなみとして、剣・杖については最低限の扱い方を知っていれば良い。剣をやりたければ剣の道場、杖をやりたければ杖の道場へ行けば良い。そして我々は合気道をすれば良い。合気道は「無刀の位から出発する」と言われます。
この言葉は開祖が言われた言葉ではなく、永年開祖の身近でお世話をしていた藤田先生が考えられた言葉だそうです。剣の柳生新陰流においても最高のレベルは、刀を使わない無刀だそうです。合気道は殺し合いの技術ではなく、神武不殺(破るなかれ殺すなかれ)を基本とする武道であると藤田先生は説明されます。
開祖ご自身は剣、杖の稽古をされていたが、昭和17年以降、門弟に剣・杖の稽古をさせなかったそうです。例外は岩間で先生のお相手をされていた斉藤先生だけだったそうです。三十一の杖と言うのは開祖が作られたものではなく、斉藤先生がまとめられたものだそうです。他にも藤平先生、西尾先生等開祖直伝の先生方も開祖との剣・杖の稽古をそれぞれ研究され、独自にまとめられたのだそうです。
しかし、開祖の最後の内弟子の一人である藤田先生達は、開祖から剣・杖の稽古を習っておられないそうです。習っていないどころか時々当時の先輩達と組剣等をやっていると、開祖に大変叱られたそうです。その真意は開祖に聞かなければなりませんが、直接開祖に聞く人は誰もいなかったようです。藤田先生は開祖の日頃のお言葉から、合気道は神武不殺の達人の技をめざし、それゆえ合気道は無刀の位と理解されたのだそうです。
さらに、合気道は全くの初心者もこの最高レベルである「無刀の位から出発」して稽古をするのだから難しい。しかし、それが合気道であると言われます。