古事記研究 【26】
第4章 水をも操る山幸彦 | ||
24.海幸彦・山幸彦兄弟による道具の交換 | 26.兄の服従 | |
25.釣り針探し | 27.神倭伊波礼毘古の命の誕生 | |
目次| 第1章| 第2章| 第3章| 第4章| ◆古事記「上つ巻」に登場する神々(五十音順) |
第4章 水をも操る山幸彦
26.兄の服従
火遠理の命が兄の釣り針を海の中になくし、兄に責められている話を聞いた海の神は、海にいる大小の魚どもを呼び集めて「もしかして、お前たちの中にこのお方の釣り針を取った魚がいるだろうか」と尋ねました。すると一同の魚どもが言うには「近頃、鯛が『喉にとげが刺さって物を食べることができない』と嘆いています。きっとその針が刺さったのでしょう」そこで、鯛の喉を探るとそこに釣り針が刺さっていました。
すぐに取り出して洗い清め、火遠理の命に差し出された時、綿津見の大神は次のように教えて言われました。「いいですか。この釣り針を兄にお返しになる時に『この釣り針は、ぼんやり針、暴力針、貧乏針、愚か針』と唱えて、後ろ手にお渡しなさい。そして、兄が高い所に田を作ったら、あなたは低い所に田をお作りなさい。兄が低い所へ田を作ったら、あなたは高い所に田をお作りなさい。私は水を司る神ですから稲の出来も左右できます。三年の間、兄の田は不作が続き貧しくなるでしょう。もし兄がそのことを恨んで攻め来ましたら、塩盈珠(しほみつたま)を出して溺れさせなさい。もしも兄が嘆いて助けを求めてきたら、塩乾珠(しほふるたま)を出して救ってあげなさい。このようにして、兄を悩み苦しめておあげなさい」と言って、塩盈珠・塩乾珠の二つの珠を授けました。
海の神は、すぐにすべての鮫どもを呼び集めて「今、天津日高の御子の虚空津日高が、地上の国にご出発されようとしている。誰が幾日でお送りし戻ってこられるか申し出よ」と尋ねました。そこで鮫どもは、それぞれ自分の身の丈に応じた日数を申し上げる中に、一尋(ひとひろ)の鮫が「私でしたら、一日でお送くりし、すぐその日のうちに帰って来られるでしょう」と申し出ました。そこで「それならば、お前がお送り申しあげなさい。但し、海中を渡る時には恐ろしい思いをおさせするではないぞ」と命じて、ただちに火遠理の命を一尋鮫の首に乗せて送り出しました。
一尋鮫は、約束どおり一日のうちにお送り申しあげました。そして鮫が帰ろうとした時、火遠理の命は身につけていた紐小刀(ひもかたな)を解いて、その鮫の首につけてお返しになられました。それで、その一尋鮫は今でも佐比持(さひもち)の神というのです。
火遠理の命は、海の神が教えたとおり、呪いの言葉を唱え、後ろ手にこの釣り針を兄にお返しになりました。すると、兄の火照の命は海の神の言われた通り、次第に貧しくなって前よりもさらに荒れた心になり、ついには火遠理の命を攻めて来ました。
火遠理の命は、火照の命が攻めようする時には塩盈珠を出して溺れさせ、それを嘆いて許しを乞いに来たので、今度は塩乾珠を出して救い出されました。このように悩ませ苦しめなさったので、ついに兄が頭を下げて「私は、これから後はあなた為に昼夜なく守護する人になってお仕えしますので、どうか許してください」と懇願されました。
◆兄の服従に登場する神
・火遠理(ほおり)の命 ・綿津見の神 ・火照(ほでり)の命 ・佐比持(さひもち)の神 |
<山幸彦(山佐知毘古)> <伊耶那岐の命と伊耶那美の命が生んだ、海の神> <海幸彦(海佐知毘古)、貧しくなり山幸彦を攻める> <火遠理の命を一日でお届けした一尋鮫> |
【追:「さひ」とは「刀」のことです。佐比持(さひもち)の神とは、刀を持った神ということです】
【追:塩盈珠(しほみつたま)は、「赤玉」で地の呼吸。塩乾珠(しほふるたま)は、「白玉」で天の呼吸を表します。塩盈珠と塩乾珠が司る、地の呼吸と天の呼吸により、潮の満ち干が起こります。塩盈珠と塩乾珠の二つの珠をむすんでいるのが、「真澄の玉(珠)」(ますみのたま)で「青玉」です。真澄の玉(珠)はあらゆるものを照らし、この世を浄化へと導くものであり、合気道の働きそのものです。荒魂と和魂の、厳(いづ)の御魂が塩盈珠(しほみつたま)で、幸魂と奇魂の、瑞(みづ)の御魂が塩乾珠(しほふるたま)です。真澄の珠を密教では「金剛不壊の如意宝珠(こんごうふえのにょいほうじゅ)」と呼びます。】
【追:山幸彦は山彦とも言い、山彦(やまびこ)は山の神でもあります。山や谷で大きな音を発すると反射して戻ってきますが、これは山彦(やまびこ)が応えていると言われます。開祖は「武における業はすべて宇宙の真理に合わせねばならない。宇宙と結ばれぬは孤独なる武にすぎず、武産の『武』のそもそもは『雄叫び』であり、五体の響きが宇宙の響きとこだまする『山彦の道』こそ合気道の妙諦にほかならない。」と言われています。】
・かんながら赤白玉やますみ玉合気の道は小戸の神技 ・又しても行詰るたびに思ふかないづとみづとの有難き道 ・天地に気結びなして中に立ち心構えは山彦の道 ・おのころに気結びなして中に立つ心みがけ山彦の道 ・ことだまの宇内にたぎるさむはらの大海原は山彦の道 ・火と水の合気にくみし橋の上大海原にいける山彦 ・おのころに常立なして中に生く愛の構えは山びこの道 ・日地月合気になりし橋の上大海原はやまびこの道 |
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