第3章 地上の平定と天孫降臨
1. 復命しない神々と末路
天照大御神は「葦原の中つ国と呼ばれているあの国は、豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国と呼ぶべきで、 本来ならわが子であるあなたが治めるべき国なのです。」と正勝吾勝々速日天之忍穂耳(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみ)の命に言われ、 葦原の中つ国へ行くことを命じられました。
忍穂耳の命は、天の浮橋に立たれ、葦原の中つ国の様子をご覧になると、「豊葦原の千秋の長五百秋の水穂の国は、大変騒々しく、乱暴で下品な国ではないか。 (私は行きたくない)」と言われ、帰り上られて天照大御神にお願いされました。
天照大御神は、高御産巣日(たかみむすひ)の神と天の安の河の河原に八百万の神々を集めて相談し、思金(おもいかね)の神にいずれの神を遣わせば平定することができるか案を出させました。
思金の神は、「天菩比(あめのほひ)の神を遣わしましょう」と答え、天菩比の神を葦原の中つ国へ遣わしました。 しかし、天菩比の神は大国主の神にへつらって、三年たっても復命しませんでした。
天照大御神は、また高御産巣日の神と八百万の神々に相談されました。そこで思金の神が「天津国玉(あまつくにたま)の神の子、天若日子(あめのわかひこ)を遣わしましょう」と答え、 高御産巣日の神は、森の鹿を射る天のまかこ弓と大蛇も殺せる天のはは矢を天若日子にお与えになり葦原の中つ国へ遣わしました。
しかし、天若日子は、葦原の中つ国に降りて着くとすぐに、大国主の神の娘の下照比売(したてるひめ)と結婚し、そしてその国を得ようと思い、八年たっても復命しませんでした。
そこで、天照大御神は、また高御産巣日の神と八百万の神々に「天若日子も長い間復命しません。 また別の神を遣わして、天若日子がなぜ長い間留まっているのか理由を問いたださなければいけないと思うが、いずれの神が適任でしょうか」と尋ねられました。
思金の神は、「雉(きぎし)、名は鳴女(なきめ)を遣わしましょう」と答え、雉の鳴女に「お前が天若日子のところへ行って、 天若日子に『お前を葦原の中つ国に遣わしたのは、その国の乱暴な神々を説得して従わせるためなのに、なぜ八年たってもなにも復命しないのだ。』と問いただすのだ」と言われました。
鳴女は天より降ってきて、天若日子の門の神聖な桂の木の上に止まり天若日子に向かって、天つ神の言われたとおり、 「おまえを葦原の中つ国に遣わしたのは、その国の乱暴な神々を説得して従わせるためなのに、なぜ八年たってもなにも復命しないのだ」と問いただしました。
天若日子に仕えている天佐具売(あめのさぐめ/天探女とも書きます)が、この雉の言っていることを聞いて、天若日子に「この鳥の鳴き声は大変不吉です。 射殺してしまいましょう」と進言するやいなや、天若日子は天つ神の下さった弓と矢でその雉を射殺してしまいました。
ところが、その矢が雉の胸を貫いて射上げられて、天の安の河の河原におられる天照大御神と高木(たかぎ)の神の前に落ちました。
この高木の神は、高御産巣日の神の別名です。高木の神がその矢を取ってご覧になると、血が矢の羽についていました。
高木の神は「この矢は天若日子に授けた矢だ」と言われ、それを八百万の神々に見せ「もし天若日子が命令に背かずに、 悪い神を射ようとした矢がここに届いたのなら、天若日子に当たるな。もし反逆心があるのなら、天若日子よ、この矢に当たって死んでまえ」と言われ、 その矢を取って、矢が飛んできた穴から衝き返して下したところ、天若日子が床に寝ている時に胸に当たり、天若日子は死んでしまいました。
さて、天若日子の嫁の下照比売の泣く声が天にも届きました。そこで、天上にいる天若日子の父の天津国玉の神、 そして天若日子の天上にいる別の嫁と子供がそれを聞き、降りてきて泣き悲しみすぐに喪屋(もや)を作りました。
河雁(かわがり/かり)を死人の食物を持つ役にとし、鷺(さぎ)を墓所の箒(ほうき)を持つ役に、翡翠(かわせみ)を死者への御饌(みけ)を作る役に、 雀(すずめ)を碓(うす)をつく役に、雉(きじ)を泣き女の役にして、八昼夜弔いをしました。
【追記】
- 天若日子の慢心と命令違反は、合気道における「心の乱れ」が技の精度を崩すことと重なります。