第4章 水をも操る山幸彦
3. 兄の服従
火遠理の命が兄の釣り針を海の中になくし、兄に責められている話を聞いた海の神は、海にいる大小の魚どもを呼び集めて 「もしかして、お前たちの中にこのお方の釣り針を取った魚がいるだろうか。」と尋ねました。
すると一同の魚どもが言うには「近頃、鯛が『喉にとげが刺さって物を食べることができない』と嘆いています。 きっとその針が刺さったのでしょう。」そこで、鯛の喉を探るとそこに釣り針が刺さっていました。
すぐに取り出して洗い清め、火遠理の命に差し出された時、綿津見の大神は次のように教えて言われました。
「いいですか。この釣り針を兄にお返しになる時に『この釣り針は、ぼんやり針、暴力針、貧乏針、愚か針』と唱えて、後ろ手にお渡しなさい。 そして、兄が高い所に田を作ったら、あなたは低い所に田をお作りなさい。兄が低い所へ田を作ったら、あなたは高い所に田をお作りなさい。 私は水を司る神ですから稲の出来も左右できます。三年の間、兄の田は不作が続き貧しくなるでしょう。 もし兄がそのことを恨んで攻め来ましたら、塩盈珠(しほみつたま)を出して溺れさせなさい。 もしも兄が嘆いて助けを求めてきたら、塩乾珠(しほふるたま)を出して救ってあげなさい。 このようにして、兄を悩み苦しめておあげなさい。」と言って、塩盈珠・塩乾珠の二つの珠を授けました。
海の神は、すぐにすべての鮫どもを呼び集めて「今、天津日高の御子の虚空津日高が、地上の国にご出発されようとしている。 誰が幾日でお送りし、戻ってこられるか申し出よ」と尋ねました。
そこで鮫どもは、それぞれ自分の身の丈に応じた日数を申し上げる中に、一尋(ひとひろ)の鮫が 「私でしたら、一日でお送りし、すぐその日のうちに帰って来られるでしょう。」と申し出ました。
そこで「それならば、お前がお送り申しあげなさい。但し、海中を渡る時には恐ろしい思いをおさせするではないぞ。」と命じて、 ただちに火遠理の命を一尋鮫の首に乗せて送り出しました。
一尋鮫は、約束どおり一日のうちにお送り申しあげました。 そして鮫が帰ろうとした時、火遠理の命は身につけていた紐小刀(ひもかたな)を解いて、その鮫の首につけてお返しになられました。 それで、その一尋鮫は今でも佐比持(さひもち)の神というのです。
火遠理の命は、海の神が教えたとおり、呪いの言葉を唱え、後ろ手にこの釣り針を兄にお返しになりました。 すると、兄の火照の命は海の神の言われた通り、次第に貧しくなって前よりもさらに荒れた心になり、ついには火遠理の命を攻めて来ました。
火遠理の命は、火照の命が攻めようとする時には塩盈珠を出して溺れさせ、それを嘆いて許しを乞いに来たので、今度は塩乾珠を出して救い出されました。
このように悩ませ苦しめなさったので、ついに兄が頭を下げて「私は、これから後はあなたのために昼夜なく守護する人になってお仕えしますので、どうか許してください。」 と懇願されました。
【追記】
- 塩盈珠・塩乾珠について
・塩盈珠(しほみつたま)… 赤玉/地の呼吸
・塩乾珠(しほふるたま)… 白玉/天の呼吸
「地の呼吸」、「天の呼吸」、この二つの呼吸の働きによって、潮の満ち干が起こります。 - 四魂との対応
・塩盈珠(赤玉)… 荒魂・和魂の「厳(いづ)の御魂」
・塩乾珠(白玉)… 幸魂・奇魂の「瑞(みづ)の御魂」 - 道歌に出てくる真澄の玉について
真澄の玉(ますみのたま)… 青玉/浄化・合気道の働き
赤玉と白玉の二つの珠を結び、全体を調和させているのが、青玉の「真澄の玉」です。
真澄の玉はあらゆるものを照らし、この世を浄化へと導く働きを持ち、
その働きは合気道そのものとも言えます。
密教では「金剛不壊の如意宝珠」とも呼ばれます。 - 稽古につなげる
赤玉(地)と白玉(天)のはたらきが、青玉(真澄の玉)によって結ばれ、一つの大きな「和合」として現れています。
技の形だけでなく、取りと受けが「和合」を感じながら、互いの呼吸が一つに溶け合う瞬間を探してみてください。
【追記】道 歌
- かんながら赤白玉やますみ玉合気の道は小戸の神技
- 又しても行詰るたびに思ふかないづとみづとの有難き道
- 天地に気結びなして中に立ち心構えは山彦の道
- おのころに気結びなして中に立つ心みがけ山彦の道
- ことだまの宇内にたぎるさむはらの大海原は山彦の道
- 火と水の合気にくみし橋の上大海原にいける山彦
- おのころに常立なして中に生く愛の構えは山びこの道
- 日地月合気になりし橋の上大海原はやまびこの道